かどで



一 かどで  二 竹芝寺 三 足柄山 四 富士の山 五 梅の立ち枝

六 物 語 七 姉なるひと 八 東山なる所 九 子忍びの森


足柄山

足柄山。 それはもう、四五日前からわたしたちのゆく手をさえぎって、恐ろしげな姿を横たえていました。

まだふもとに入ったばかりというのに、あまりに木が茂っていて、空もろくろく見えないような、こんな恐ろしい山へ入っていくのです。

今夜は、このふもとに泊まります。
月もない夜、 こんな暗くて、道もわからないのにいったいどこから来たのでしょう、三人の旅芸人の女の人が、わたしたちの泊まっていた小屋の前に傘をすえていました。五十歳くらいの人と、二十くらいの人と、もうひとりは十四、五才くらいでしょうか。

おとこのひとたちが火をともして明るくして、みな外に出てきました。
むかしいた、こはたという人の孫なのだそうで、髪がすごく長くて、いい具合に額にかかって、色が白くて、なんてきれいなのでしょう。

「どこかのお屋敷の下仕えでもしていたのではないかな」と人々は言ってしきりに感心していました。

こんないい声は今までに聞いたことが無いくらい澄んだ声が空にひびきわたり、上手に歌を歌いました。

みんな、その姿と声に、惚れ惚れして、酔いしれて、「これは、すごい。まあ西国には、これだけのあそびはいないだろう」というと「難波わたりにくらぶれば〜」とそういう受け答えにも、節をつけて綺麗な声で歌うのです。

こんな綺麗な声で歌ってくれたお姉さん達があのおそろしいような山の中に帰っていくのをみな名残惜しんで泣きました。おさなかったわたしは、お姉さん達が行ってしまった後を片づけてしまうのさえ残念でなりませんでした。

次の日まだ暗いうちに、出発しました。
この足柄を越えるのです。 山の中の恐ろしいことといったら、言葉にも言い表すことが出来ません。
雲は足の下に踏んでいきました。

山のなからばかりへ行ったところで、木の下に、わずか葵が三筋ばかりあるのをみつけて「こんな山の中に、浮世はなれてはえていることだ」と人々は言って見ていました。

あのお姉さんたち……
水の流れているところが、三箇所…そして葵が三筋……

ようやく、山を越えて、関山で一休みしました
ここからは、駿河の国に入ります
よこはしりの関の近くに岩壺という所がありました。 そこに、たいへん大きな石があって、その穴から清水がでていて、それがなんとつめたくて、きれいだったことでしょう。




では、あのころにもどって 佐紀といっしょに、本をよみましょうか



この窓から、とびましょう
佐紀の声がきけます



次は 富士の山 その次は 梅の立ち枝 その次は 物 語 その次は 姉なるひと

その次は 東山なる所 その次は 子忍びの森


ほうむ