更級日記



一 かどで  二 竹芝寺 三 足柄山 四 富士の山 五 梅の立ち枝

六 物 語 七 姉なる人 八 東山なる所 九 子忍びの森  

 子忍びの森

 そんな感じで、あれやこれやと、いろんなことを思い続けるのが、日課のような日々・・
たまには物詣をしてみても、しっかりと、立派な大人になりたいなどとは、念ずることもできなくて・・。

 近頃では十七、八歳からお経を読んで、お勤めもするのに、そんなこと全然興味なくって・・

 こんな私が考えつくことと云ったら・・とっても、高貴な身分の方で、姿かたちは物語の光源氏のようでおわせられる人が、年にひとたびでも通ってこられて、例えばあの浮舟の女君のように、山里にひっそりと隠されるように住まいして、花やもみじや、月とか・・雪をながめて心細い感じで、素敵なお手紙を時々おくってくださるのを楽しみに見て、そんな暮らしをしてみたいと、そんなことが現実にあることのようにさえ思っていたのです。

 もしも・・父様が官についたら、わたしも随分高貴な身分になること・・なんて・・当てもないことを思ったりしていると、父は漸くの事で、はるか遠い東の国の国司になりました。そして「いつか、この都に近いところの国司になったならば、その土地に連れてゆき、心ゆくばかりに大切にして、海山の景色をみせ、いや、それはもちろんだが、私の身分よりさらに高いものにしてあげたいと、常々思っていたのだけれど・・

 わたしも、あなたも運のないものだから、結局はこのようなはるか遠い国に任ぜられた。あなたが幼かったころ、東の国に連れて行った時でさえ・・具合の悪い時などは、愛するものをこの国にすておいたなら、どのような目にあうやもしれずと・・

 この恐ろしい土地であっても私一人ならまだしも、家族みな引き連れて、言いたいことも言わず、やりたいこともできず生きてきたが、ああ・・なんと侘しいことよ・・まして今はもう大人になっているのだから、、私の命だとて、いつまで続くともとも知らず、さすらいの身になるとも京のうちであるならば・・・

 しかし、このみやこのうちとても、心置きなく頼みにできる親類があるでなし。といって、ようやくに就いた国司の職を辞し申すなど、そんなことはとてもできない。

 結局はあなた方をみやこにとどめて、しばらくは別々になるよりほかはない・・・。しかるべくちゃんとして、心置きなく出発することができたらどんなにいいか・・ああ・・・それは無理だ・・」と父さまは、夜となく昼となく嘆いておられた。私も、もう桜の花ことも、紅葉のきれいなことも、もう何も考えられないくらいに、悲しくてたまらない。でも、どうにもできない私だった。



では、あのころにもどって 佐紀といっしょに、本をよみましょうか



この窓から、とびましょう
佐紀の声がきけます


ほうむ