更級日記



一 かどで  二 竹芝寺 三 足柄山 四 富士の山 五 梅の立ち枝

六 物 語 七 姉なるひと 八 東山なる所 九 子忍びの森
 物 語

こんなふうにして沈んでばかりいるので、母が心配して、こころのなぐさめにと言って、物語を求めてくださいました。 そうしたら、ほんとに だんだんと気持ちがやすらいで行きました。

紫のゆかりを読んで、この続きを見たいと思ったけれど、頼める人もないし・・。
うちのひとたちも皆まだ都に慣れていないころだったから、誰も見つけることはできませんでした。

だめだ〜・・
見たいなあ、ああ、この源氏の物語。どうかどうか、源氏の物語、一の巻きより、ぜ〜んぶ、見せてくださいませ。
心のうちに祈る毎日でした。
親が太秦にこもるときにも、このことだけを申し上げて、出てきたら絶対にこの物語を全部見るって、思ったのに・・・

だめだ・・

ああ、だめだ・・口惜しいなあ・・。

そんな折、おばさまが田舎から上ってこられて、そこへ訪ねていったんです。そしたら、ずいぶん大きくなっって、かわいくなったねとおっしゃって、喜んでくださって、帰りがけに

「何を差し上げましょうか、実用的なものでは、つまらないわね。 源氏物語、ほしいとおっしゃってたでしょう?」
「!げ・・ん・・じ・・」「おばさま!ほんとに?源氏物語を下さるの?」「全巻・・!?」

ああ、あの源氏の物語を・・五十余巻・・大きな箱に入って、そのほかに「在中将」「とをきみ」「せりかわ」「しらら」「あさうず」などの物語を一袋とりいれていただいて帰るここちのうれしさよ・・

あちらこちらと、ほんの少しずつ見て、もっともっとはじめから終わりまでちゃんと続けて読みたいと願い続けた源氏を、一の巻から、几帳のなかで、誰にも邪魔されず、うつぶせになりながら引き出しては読むここち、后の位なんて目じゃない。こっちの方がもっともっとすばらしい。

昼は日ぐらし、夜は目のさめたるかぎり・・か
ちかくに火をともして・・これを見ていたっけ、ほかにはなにもしないで、一日中・・見ていた。自然に言葉がうかんでくる。

そんなある日、わたしは夢を見ました。きれいな僧侶でした。黄色の着物を着ていて、「法華経五の巻きをいますぐ習いなさい」って言いました。でもそのことは誰にもいいませんでした。習いたいとも思いませんでした。ただただ、心の中は物語りだけ。わたしは今はまだそんなにきれいじゃない。でも、もう少し大きくなったら、すごくすごくきれいになって、髪ももっともっと長くなって、光の源氏の夕顔とか、宇治の大将の浮舟の女君のようになるんだって、そんなことを本気で思っていたのよ・・

まったく、ばかね・・ああ。




では、あのころにもどって 佐紀といっしょに、本をよみましょうか



この窓から、とびましょう
佐紀の声がきけます


次は 姉なるひと その次は 東山なる所 その次は 子忍びの森



ほうむ