更級日記



一 かどで  二 竹芝寺 三 足柄山 四 富士の山 五 梅の立ち枝

六 物 語 七 姉なる人 八 東山なる所 九 子忍びの森

 東山なる所

 四月の末のころでした。わけあって、東山というところへ移り住みました。田の苗代に水を引いてあるのも、植えてあるのも、青々と美しく見渡されて、なかなかいい眺めでした。山陰暗く、心細い夕暮れ、くいなが騒がしいほどないていました。

 たたくともたれかくひなの暮れぬるに山路を深くたづねては来む

 くひなの声は、誰か訪ねてきて戸を叩いているように聞こえるのに
こんなに山深いところでは誰もても訪ねて来ないね・・・ 

 霊山に近いところなので、お参りに行って来ましたが、とても苦しかったので山寺の石井(石を積んで水をせき止めてあるところ)によって手ですくってお水を飲んでいると、そばで「ああなんてこの水は、おいしいのか・・飲んでも飲んでもまだ飲みたいよ」 というので

 奥山の石間の水をむすびびあげて あかぬものとは今のみや知る

 それはもう、結ぶ手のしずくに濁る山の井ですもの・・今、初めてそれを知ったのですか?

と言ったら、水飲む人が、その歌ははわたしも知ってはいますがねえ、しかしこの水は、また格別ですよ

 山の井の しづくに濁る水よりも  こはなほ あかぬここちこそすれ

そして、また京に帰ってきましたが、出かけたころは水ばかり見えていた田が、もうすっかり刈り取られていました。ずいぶん長くいたのだと、改めて・・思います。

  苗代の水かげばかり見えし田の 刈りはつるまでなが居しにけり

 そして十月の末頃、ちょこっとまた来てみたら、あのときは木々が生い茂ってまわりも暗かったのが、今ではすっかりは落ち葉になって、乱れ散って・・と、なんだかしんみりした気分で、あたりを見まわしていました。せせらぎが流れていて・・心地よげに・・ああ・・いまでは木の葉に埋もれて、かすかに跡が残るばかり。



では、あのころにもどって 佐紀といっしょに、本をよみましょうか



この窓から、とびましょう
佐紀の声がきけます


次は 子忍びの森


ほうむ